乗車日記

自転車ときのこ

前パッド交換

Journal of Fantastic MTB world, Volume 1, No. 2
Decline rate of pad thickness and powder adhesion problem in Marta disk brakes

M. Tasano
Department of Mountainbike Engineering, Trail Univ.
Kyoto 615-8888, Japan
(C) 2010 Mountainbike Society of Japan

          Received 29 May 2010, revised 30 May 2010, accepted for publication 30 May 2010

  • 概要

ディスクブレーキのパッド交換とメンテナンスを行った。マグラ社マルタの前ブレーキにおいてUNEX社製のパッドを使用した場合、16μm/hという速度で削れることが分かった。また、パッドには磁性体が含まれており、削れた粉体がピストンに付着すること、パッド交換時にはこれを十分に除去する必要があることが明らかになった。(ただし、パッドのピストンへの固定が磁気吸着でない方式のブレーキでは、付着問題は生じないと思われる。)

  • はじめに

昨晩、ディクブレーキのパッドをふと見たらかなり薄くなっていた。今日のライドの際に心配になってきたので交換した。

  • 作業および計測結果

ブレーキはマグラ社製・マルタ2005年モデル、パッドはUNEX社製である。交換したのは前ブレーキのパッドであり、最薄部で0.3mmまで減っていた。同型の新しいパッドの厚みは2.3mmであった。これらの厚みはプレート厚を除いた値である。
 また、パッドを外した際に、ピストンに黒色の粉末が多量に付着している様子が観測された。粉末は、高さ1~2mm程度、直径4mm程度の山になって、ピストンの中心にくっついている。このため、そのまま次のパッドをつけると、粉末でパッドがピストンから浮いて、平行にならないだけでなく、対向するパッド同士の間隔が狭くなり、ロータがはまらなくなった。(この現象は従来から観測されていた。)
 この粉末は磁力でピストンに吸着されていると思われ、除去が困難であった。野外用強力両面テープを六角レンチに貼付けて、それに粉末を付着させるという作業を徹底的に行うことで、ようやく除去した。両面テープの交換回数は7回、作業時間は約20分。その結果、ローターは十分な猶予を持ってパッド間に納まるようになり、擦れは無くなった。

  • 考察

パッド厚は2.3mmから0.3mmに減少したので、減少量は2.0mmである。前回の交換は2010/3/22であり、乗車記録[1]によると今回の交換までに約130時間乗っている。よってパッド減少速度は約16マイクロメートル/時間と計算される。
 また、観測された粉末は磁性体と思われる。これは本ブレーキのピストンが磁性を帯びており、パッドのベースプレートを磁気吸着する仕様になっていることから推測される。その起源としては(A)地面から砂鉄を拾い上げている仮説と、(B)パッド自体に磁性体が含まれている仮説、が考えられる。
 ここで仮説(B)を確かめるため、今回使用していたパッドをヤスリで削り、白い紙の上にまいて、裏から磁石をあてて動かしてみた(写真1左)。パッドの粉は磁石に引き寄せられて動いたので、パッドには磁性体が含まれていることが確認された。パッドであれば2x20x10=400立方mm以上の体積があるので、これが削れて付着していると考えれば、ピストン上に観測されている多量(数十立方mmもの)の粉末を十分に説明できる。これに対して仮説(A)では、少量の付着可能性はあるが、観測された量の砂鉄を集めるのは、仮に直接磁石を地面上で牽引しても容易ではないと考えられる。よって観測された粉末は(B)が起源であると結論できる。
 ここで、この磁性粉末がパッドのアタリに与える影響が非常に大きいことを考えると、マグラ社のマニュアル[2]に粉末の除去作業について何も記載されていないことが奇妙に思われる。そこで、サードパーティー製のパッドだからこそ、磁性粉末が含まれていた可能性を検討した。マグラ純正パッド(パーフォーマンスタイプ)を削って、上記と同様の実験を行った結果が写真1右である。マグラ製パッドの粉末も同様に磁石に引き寄せられるという結果が得られた。よって、磁性粉末問題は一般にどのパッドでも生じ得るのではないかと推測される。

  • 結論

 UNEXのマルタ用パッドを前ブレーキに装着した際に16μm/hの速度で削れることが分かった。また、パッドには磁性体が含まれており、磁性体ピストンに付着してパッドのアタリに悪影響が出るため、新パッド装着前に磁性粉末の除去が必要である。

写真1:UNEX製パッド(左)およびマグラ製パッド(右)の磁性チェック

  • 謝辞

磁性粉末パッド起源説のヒントをいただいたMoorieさん(だったかな?)に感謝する。また、温かく?見守ってくれた家族に感謝する。

  • 参考文献

[1] Tasano, Private Diary 2010 March-May.
[2] Marta SL/Marta Workshop 2005, p.13 (English).