乗車日記

自転車ときのこ

The coldest winter下巻読了

ずいぶん時間がかかってしまったがようやく読み終えた。下巻では中国軍の参戦による巻き返しがあり、最終的に膠着状態になるまでの過程が描かれている。文献を調べて得た知識ではなく、実際に戦った兵士や士官100人近くにインタービューして書かれた記述は圧巻的だ。これぞジャーナリストの真骨頂というところ。ただそのため幾つかのローカルな場所に記述が集中するので戦場の全体像は解りにくい。まあそういうものが知りたければ別の本がある。
 政治に関しては、下巻でも一貫して自分は安全なところに居ながら、自分が優位に立つために現場に無茶をやらせる人間達への痛烈な批判が込められている。とくにマッカーサーについては徹底的だ。私自身は神話に囚われているのか少しは彼に愛着があるが、まあ確かに仁川上陸以外は目茶苦茶だ。
 戦争は政治目的を達成するための道具であるべきであるとはクラウゼビッツの言葉だが、これは国家元首自らが軍を率いていたナポレオン時代の話なのだろう。本著者は、地理的に隔離され安全な位置にあるアメリカにおいては、自分達が安全ということで開戦の敷居が極端に低く、政治的優位すなわち選挙に勝つために戦争をするという構造的問題があると指摘している。
 もうひとつの指摘は相手のメッセージの読み違え。朝鮮戦争は開始から膠着に至るまで、すべて相手の考えを誤解することが悲惨な状況を引き起こしており、相手を見ずにステレオタイプな決め付けで物事を進めることの危険性が浮き彫りにされている。
 ただ、外交という舞台で数少ない公式メッセージのみで相手の考えを理解するのは容易なことではないだろうと思う。いろいろと裏のパイプがあればよいが、共産中国とアメリカの間ではそれも望めなかっただろうし。
 一つ変に思ったのは、その後の韓国発展史についての記述において朴大統領のことが全く書かれていなかったこと。並行して読んでいた姜教授の著作とはずいぶん違う扱いだ。まあ本書のテーマではないので気にしないでおこう。 ところで、著者を一躍有名にしたのはベストアンドブライテストというケネディ政権がベトナムの泥沼に引きずり込まれる様子を書いた著書であるということを、浅学のためこの本の後書きで始めて知った。次はそれを読んでみたい。