乗車日記

自転車ときのこ

国家債務危機 読了

フランスで2010年の5月に出た本。前のサルコジ大統領に頼まれてフランスの経済に関する諮問委員会の委員長になって取りまとめたアタリ氏がその報告書の理念をまとめたもの。
最初の1/3は国家債務の歴史。真ん中は債務危機とその解消法の一般論。最後の1/3はフランスの現状と対応法についての議論となっている。
西ヨーロッパ諸国では当初は国家元首の個人的債務だった公的債務が、だんだんと国家組織の債務となって行く。中世ではユダヤ人から金を巻き上げたうえで国外追放にするとか、テンプル騎士団から借りた金が返せなくなったので騎士団員を抹殺するとか無茶な債務解消方法も使われてい。イタリア都市国家では13世紀ごろから債権というで発行されるようになり、債券市場も出来て行ったらしい。歴史的に見ると債務というのはどのくらいまで可能かということは興味深いが、イギリスのナポレオン戦争直後と二次大戦直後あたりで対GDP比250%ぐらいまで行ったことがあるようだ。
 この対GDP比という評価方法だが、前から少しおかしいと思っていた。それが、この本を読んですっきりした。やはりストック(これまでの積算値)である国家債務総額をフロー(一年ごとの数字)であるGDPと比較するのは本来はおかしいとのこと。国家債務総額と比較するべきなのは同じくストックである国家の資産価値だということ。ただ、国家の資産価値というのは生産設備とかインフラとかの量だけでなく、国民の教育レベル、軍事力、外交的影響力、国に蓄えられた文化、芸術、国民の気質等々、まで含めた国家の総価値ということなので、現実には算出しにくいというか、見方によって変わってしまう値になる。なので分かりやすい量として、対GDP比が使われるらしい。まあ、本来毎年の利払いをGDPと比較するべきだが、利払いは債務総額に比例するので、債務総額とGDPの比較もありということなのだろうと自分は理解している。
 債務の解消方法は8つあるそうだ。増税、歳出削減、経済成長、低金利、インフレ、戦争、外資導入、デフォルト。歴史的に見るとインフレが採用率一番、次がデフォルト。このあたりはその後大混乱が待っているので、やはり最初の三つをやるしかないという議論で、夢のような解決方法が語られているわけではない。
 それにしても、フランスはかなり財政が危ないようで、国家債務の対GDP比は80%であるものの、その国内消費率はわずか30%で残りの70%は外国から借りているお金ということ。利払いも対GDP比2%台ということで、なんと日本より大きいぐらいらしい(日本は利払い10兆円/GDP500兆円=2%)。アメリカも国債の半分は外国に買ってもらっているし、日本以外の先進国は実はアジアの新興国や中東の国々からお金を借りて暮らしているというのが実際のところで、何とかしないと危ないという意識のもとで書かれている。
 しかし、日本の利払いの額が少なくてすんでいるのは低金利だからで(借金は1000兆円あっても利率が1%しかないので利払いは10兆円)、利子が上がると大変なことになるのは間違いない。やはり国内預金が尽きるまでに何とかしないと。