乗車日記

自転車ときのこ

記号創発ロボティクス 読了

知能のモデルを考え、それをアルゴリズムにしてロボットに実装し、その動きを見ることで知能とは何かを探っていく手法についての紹介。

知能というものが、現実世界を感じ取り、其処に手を加え、さらに反応を見ることの出来る体があって初めて生じうるものということを最近よく聞く。知性が外界に起因するというアフォーダンス理論も同様のことを言っていると自分は理解している。

 この本では、視覚、聴覚、触覚をもち、ものを動かしたり出来るロボットが最初に出てくる。沢山のものをひとつひとつ味わっていったとき、それぞれの感覚で得た情報の特徴を抽出し、全ての感覚の情報を総合することで、似たものを纏め、また違うものを区別する数学的モデルが組み込まれている。これによって、教えられることなく、経験することで色々なものを幾つかのまとまりに分類できるようになる。ここに、それぞれのものの概念が生まれているといえる。人間が付けている名前はそれぞれぬいぐるみやタンバリンやマラカスなどだが、名前がなくても、分類することは記号化の第一段階。

 その他にも、スペースを抜いた英語の本を読み込ませると、単語の区分けができるようになるプログラムのこと、また言葉だけでなく動作にも二重分節があるという実験、ロボットと人間がお互いにやって欲しいことを伝え合い、結果を評価し合うことで共有認識あるいは信頼関係が出来ていく実験などが紹介されている。

 もっと抽象的なモデルはこれまでにも色々とあったかもしれないが、アルゴリズムとして具体化し、それに体と感覚を与えたときに、実際に動かし、動作を確認できるような高速な計算器と周辺技術が誰にでも使えるようになったことが大きいと著者は分析している。

 心を外部から計測できなかった時代には、自分の心を分析する哲学という手法しかなく、次にインプットとアウトプットだけを見る行動心理学が現れたが、ついに技術の発展によりモデルを動かしてみることが出来る時代が来たという。

 ニューロンのシミュレータをスーパーコンピュータで動かして、何らかの動作があったとしても、たぶんそれを解析して何故そういう動きがあるのかを解析するのは大変困難なはず。

 その意味で、著者等の言う構成論的アプローチ、出来るだけ単純化したモデルの動作を見ることで本質に迫ることが出来るというのは、非常に本筋に近いアプローチだと感じた。大変興味深いので、さわりだけでなくもう少し勉強してみたい。クラスタリングアルゴリズムぐらいは、その数学にもあたっておきたいと思う。

f:id:tasano-kona:20140827000340j:plain