乗車日記

自転車ときのこ

スターリン 「非道の独裁者」の実像 読了

ヒトラー演説に続いてまた独裁者の本。別に独裁者マニアというわけではないが、中公新書の最近の品揃えのため*1、ついつい買ってしまった。とはいうものの、自分はほぼ二次大戦中のスターリンのことしか知らないので、全体像を知ってみたかったというのはある。

冒頭に書かれているのは、ソ連崩壊後においてもロシアにおけるスターリンは評価と批判がなかば拮抗していると言うこと。自分もそうだが、西側におけるスターリン像というのは何百万人を殺した恐ろしい独裁者というもの。しかし、ロシアにおいては30年代初頭の農産物強制徴収はそれに伴う300万人とも言われる餓死者の発生は批判されるべきではあるが、それがあって初めて工業化が推進され、ひいては二次大戦での祖国防衛につながったという考えも少数派ではないようだ。20世紀の過酷さを改めて重く思い返すことになった。

それにしても、自分の政策がなんらかの問題を引き起こしたとき、すべて誰かのせいにして、粛正することで、なかったことにするやり方は背筋が寒くなる。あるときはクラーク(裕福な農民)、あるときは地方の共産党指導者、あるときは経済官僚、あるときは高級軍人、あるときは政敵とその仲間。これほど粛正を繰り返していて、何かを出来る人材が残るというのも不思議なぐらいだ。絶対的な独裁制においては、最高指導者が責任を取ることが出来ないので、必ずこういうやり方になるのだろうとは思うが、それにしても酷すぎる。

その他、若い頃のスターリンが詩を書いて新聞に発表していたこと、ロシア革命が起こる前は何度も捕まってシベリア送りになっていたことなど、シベリアの流刑先というのは結構緩くて何度も脱走していること等々、知らないことだらけだった。

もう一つ。スターリンの生まれた南カフカスグルジア。田舎というイメージだったが、よくよく考えるとカスピ海油田があり、それをトビリシを経由して黒海のバツーミに運ぶための鉄道が1887年から走っている工業化・都市かと縁の深い地域でもある。そうでなければそもそも社会運動、労働運動が生まれて、革命家が活動する素地もない。油田と鉄道に関する知識はあったが、それが自分の中ではロシア革命と結びついていなかったことに気がついた。

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*1:2272:ヒトラー演説、2274:スターリン