乗車日記

自転車ときのこ

興亡の世界史18 大日本・満州帝国の遺産 読了

奥書を見ると2010年5月発行とある。何度も読みかけて途中で挫折し、今回ようやく最後まで読むことが出来た。このシリーズ、毎回面白い切り口で世界史の一時代を取り上げてくれる。今回は岸信介朴正煕、そして日本と韓国(植民地朝鮮)が満州国を通して交差する様を、戦前と戦後の断絶よりも連続に注目して描いている。何度も挫折したのは主役は前述の二人であり、満州国は舞台であるため、それなりの知識がないと表面をなぞった読み方になってしまい、それが気になったため。今回、ちょうど満州国関連の本を何冊か読んだところなので、読み通すことが出来た。
 冒頭、両者なくして両国の歴史を語ることが出来ないと言うことを、当時は元首相およびハンナラ党元代表であった両者の子孫に言及することで暗示しているが、2015年の今この本を読んで、この切り口の確かさを改めて感じる。
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岸が革新官僚として、国家社会主義的産業形成の実験・実証を行った満州国。そして満州国陸軍士官学校に活路を求め、満州国軍中尉として終戦を迎えた朴正煕。それらの経験が戦後の両国に強い影響を与えている。そして金日成抗日ゲリラとして頭角を現し、活躍していたのも満州。こうしてみると三国の現代の揺籃の地とも言える。北朝鮮も含めた展開を記述してもらえれば、もっと(私の)視野が広がったかも知れない。

この本で最も参考になったのは、朝鮮半島からの満州の見え方。高麗にとって故地とも言え、地続きであって日本から見るよりよほど近く、実際国境地帯には清国が封禁していたころから多くの朝鮮人が移り住んでおり、また植民地支配下において未来を見いだせない中で希望の土地に見えたとのこと。日本の農村の青年たちにとって希望の土地だったという話はよく聞くが、植民地の立場から考えたことはなかった。官吏、軍人といった展望はあったにしろ、それでも、五族協和の建前と、内1鮮一体の建前の両者に挟まれて決して安寧の地ではなかった。

後半の韓国現代史は、途切れていた知識を保管する上で大変参考になった。私の中では朝鮮戦争時までが歴史知識、全斗煥大統領からは自分の記憶として感じているが、朴正煕大統領のあたりは幼すぎてニュースを覚えていない。僅かに、金大中氏の開放嘆願の募金を三宮の駅前でやっているのを何度か見た程度(これも全斗煥時代かも知れない)。自国はともかく、他国の現代史というのはなかなか学ぶ機会がない。一番印象に残ったのは韓国軍のベトナム戦争参加の理由。ナイーブに朝鮮戦争で米軍に助けて貰ったからかと思っていたが、むしろ韓国からの米軍撤退を阻止するために貸しを作るというのが主目的だったとのこと。

というようなことを書いている最中に金泳三氏が亡くなったというニュースを聞いた。時代は移っていくものだ。