乗車日記

自転車ときのこ

大江戸商い白書 読了

江戸の町奉行所って凄いです。人口やら間口数やら色々残してくれています。また株仲間が作った名簿や公儀の承認名簿、民間の名店ガイドブックなどを蒐集した総データ数74000件というデータブックを田中康雄さんと言う方が出版されていて、それらのデータをもとに江戸の商人像を見直す試みの一端を記した本です。
従来三井家のような詳細な帳簿が残ている大商人についての研究が多くなされてきたが、果たしてそれが江戸商人の一般像と言えるのかという疑問が著者の同期。その疑問に答えるため、これらの完全ではないデータをうまく活用して、数量分析していく過程が面白い。
 総人口のデータはあっても、町別のデータがない。これを引き出すために著者が使ったのはなんと髪結いの件数。江戸時代の男はみんな髷を結う、そしてなんと髪結いの料金は江戸全域で均一料金。すると、人口分布は髪結い店の件数に比例するという理屈。そして導き出されるのは日本橋地区に26万人、江戸町人の45%が住んでいたというもの。さらに町人地の坪数は課税に使われていた間口数のデータから算出。すると人口密度は日本橋あたりで10坪に4人と分かる。
 他にも株の履歴から商家の継続年数や、それが相続かそれとも、他人が継いでいるのかなどを調べたり、米つき屋さんはコンビニのごとくそこら中にあるが、薬屋さんは日本橋に集中しているなどなど、データに基づいているだけに説得力もあってともかく面白い。
 一点だけ文句を言わせてもらうと、東京生まれでもなく、暮らしたこともない私にとっては、地名から場所やその地区の広さや雰囲気などがさっぱり分からないので、地図をつけて欲しかった。「石橋美術版江戸切り絵図3日本橋北」と言われても、何処から何処までなのか。。。できれば現代の地図と重ねるような形で。まあ別途探してきて、それを見ながら読めば良いのですが、そんな準備がいるとはおもわず読み始めてしまいましたので。
それにしても、最近読んだ本の中では、必ずトップ5以内は間違いないぐらいに面白い本でした。山室先生の他の本もぜひ読んでみたいです。
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