乗車日記

自転車ときのこ

神経とシナプスの科学 読了

幾つか読了本が溜まっているのですが、とりあえず先ほど読み終わったので。杉晴夫先生の本を読むのは3冊目。副題は脳研究と書いてありますが、脳に行く前の神経とシナプスが情報を伝える動きの研究の歴史を大変丁寧に分かりやすく書いてあるのが素晴らしいです。おかげで自分の中で少し曖昧だった神経の活動電位の仕組みがほぼ理解できました。シナプスの本質的な意味も。神経と神経の接続点であるシナプスでは電気信号が伝わるわけではなく、神経繊維末端から化学物質が出てそれ次の神経細胞が受けるというのは知っていましたが、その第一の意義が信号の逆方向伝播を生じ得なくして、神経網の反応に秩序を与えることだそうです。当たり前すぎて考えたことがありませんでしたが、信号が逆に進むと
、階層的な処理が難しそうです。ただ、先日読んだディープラーニングの本で知ったボルツマンマシンは双方向のリンクで結ばれていたと思うので、そういう進化もあり得るのかなとも思います。

あと脊椎動物の神経には、軸索という一定間隔で切れ目の入った絶縁カバーのようなものがあり、そのおかげで細い神経でも電気信号の伝達速度が非常に速くなっているとのこと。これは切れ目から切れ目に活動電位が飛び飛びに伝わっていくため。ヒトの場合で直径20μmの神経の信号伝達速度が100m/s。これに対して軟体動物、節足動物などでは軸索がないので電気信号は連続的に伝わり、そのため遅い。神経が太くなると速く伝わるので、素早い動きが必要な部分では神経を太くして対応しているとのこと。イカなどでは直径1mmの神経というのもあるらしい。それでも伝達速度は20m/s。特に感銘したのは、神経が太いと細い神経網を作るのが難しく、かつエネルギー消費量も大きくなるため、タコやイカの脳の進化が制限されているということ。人類が滅んだあとにタコ文明が地球を支配することは無さそうなことが分かり、少し安心しました。
それからこの本によって、電磁気の研究と生体電気現象が同地点から始まっているということを、改めて認識しました。そう言えば、子供の頃のバイブルだった学研の図鑑電気には確かにガルバーニのカエルの筋肉収縮とボルタの電池とが最初の方に載っていたのですが、その意義をきちんと認識できていなかったようです。カエルの筋肉収縮から電池の発想が得られ、おかげで一定の電気を安定的に作れるようになって、その結果、電流を流すと磁場ができるなどといった電磁気現象が発見され、それがマックスウェルによって統合されて、電磁波の存在が予言され、電磁波の速度から相対性理論の発想につながった訳で、こちらも発端はカエルなんですね。
もう一つ収穫。電気ウナギの発電の仕組みがも詳しく解説してありました。子供の頃、須磨水族館に行くと必ず電気ウナギコーナーを見ていましたが、なぜ発電できるのか今に至るまできちんと分からずじまい。それがすっきり分かりました。神経や筋肉の活動電位と同じく、ナトリウムイオンやカリウムイオンの濃度差を制御して発電しているということです。ところで電気ウナギ、電圧だけかと思ったら電流もそこそこ出せるようで、何秒持続するのか知りませんが、6KWも出せるそうです。恐ろしいやつです。
f:id:tasano-kona:20160102160724j:image