乗車日記

自転車ときのこ

トルコ軍艦エルトゥールル号の海難 読了

少し前に読み終わった本。1890年(明治23年)に日本を訪問したオスマントルコ帝国の巡洋艦の航海を扱った小説。
派閥争いによる士官の人選の混乱に加えて、船は古い木造蒸気船、イギリスの妨害工作、等々あって日本に着くまでの航海で1年もかかっているという困難な状況。帰りに台風の接近を警告されるも、判断ミスで出航してしまい、和歌山沖で岩礁に当たって浸水、高温のボイラーに水が接触して爆発。船は真っ二つと事態になったのであろうという作者の推定のもとに描かれている。乗組員500名弱のうちの生存者が70名程度という大事故だ。
 これを取り巻く、政治的な動き、技術的な問題、などに加えて、乗組員の日常が描かれているのが小説ならではのところ。説教師以外はそれほど宗教にとらわれている感じでもなく、酒は飲むし、神社仏閣を見学したり、お土産を買ったり、芸者遊びを勧められてお金がないと断ったり。アル中の詩人のというのも乗っていたりする。またみんな音楽好きで、頻繁に甲板上で演奏会が開かれていたりする。イスタンブールに残っている軍人たちも巨大コーヒーハウスで喧々諤々の議論を繰り広げていて、そのような場があるということが興味深かった。
 また、軍艦派遣の目的の一つにカリフを自任していたオスマン帝国皇帝の威容をエジプトからインド、シンガポールといった航路上の国々のムスリムたちに印象付けるということが入っていたというのは、目から鱗、思いもしないことだった。各寄港地で熱烈な歓迎を受けたということなので、ムスリムにとってカリフの権威が必要とされていたというのがわかる。
 1次大戦後のオスマン帝国の終焉によって広く公認されたカリフがいなくなったこと、そして近年のISによるカリフ即位宣言。指導的な権威がいないということも様々な問題をもたらす場合があるのか。特にまとまった考えがあるわけでもないが、得るところは多かった。

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