乗車日記

自転車ときのこ

細胞の意思 読了

随分と詳細に生物発生時の細胞の動きが解説されていた。細胞の化学ならともかく、発生は全く自分の知識の範疇外。ヒトの15日目の胚が2枚の膜だなんて知らなかったので、絵を見ても最初はさっぱりわからなかった。しかし、誤魔化さずにしっかり解説して下さっているので、分化後の個々の細胞が目的を持って活動していることがよくわかった。特にヒトデの初期胚の細胞をバラバラにしても、しばらく経つとそれらが集まって、元々の場所に動いて行くという実験結果は驚きだった。
意思とは何かというといろいろ議論を呼びそうだが、DNAやRNAだけでなく、細胞内の化学物質の濃度や量、細胞内微小機関や内部フィラメントの状態なども含めて細胞の状態が決まっており、それによって活動の方向が変わってくるし、外界に対する反応も変わってくるという主張は、私にとっては全く納得のいくものだった。
最近かじった非線形現象の方から考えると、細胞内の非線形な相互作用がある程度外乱に強い幾つかの準安定状態を取ることができて、それらの状態によって行動の方向が変わってくるなら、それを意思あるいは気分と言っても良いのではないかと想像する。しかし、筆者が見せてくれた、外乱に対する臨機応変な細胞の対応を見るとそれ以上の何かがあると感じられる。
何れにせよ、蔵本先生の本で感じた、構成材料を問わない非線形相互作用による何らかの状態が生命というものの本質であるという感触が、この本を読み終えてますます深くなった。

そういえば、前に日経サイエンスに載っていた細胞シミュレータはどのレベルでシミュレーションをしているのだろうか。気になる。
http://www.nikkei-science.com/201408_078.html