乗車日記

自転車ときのこ

五色の虹 読了

建国大学の卒業生たち十人以上へのインタビューを中心とした取材・調査をまとめたもの。建国大学というのは1938年に当時の満州国の首都新京に設立された国策大学。石原莞爾の肝入りで一期150人の日本人・朝鮮人・中国人・モンゴル人・白系ロシア人の長優秀な学生を集め、共同生活の中で切磋琢磨させることで五族協和を具体化させて行く満州国の指導層を育成しようとしていた。
当時としては異質なことに、学内での言論の自由が保障されており、夜毎、寮内では日本の支配体制に向けての激しい議論が繰り広げられたという。そして卒業生たちの多くが日本の敗戦と満州国崩壊後、国策大学の出身者ゆえに厳しい過酷な人生を過ごしたということをこの本で初めて認識した。特に中国人、モンゴル人、ロシア人の場合、共産党政権下で相当の迫害を受けたようだが、黙して語らない人も多いようだ。そんな中で、同窓生の名簿が作成され、2010年まで同窓会が開かれていたというのは驚きだ。
著者は新潟、神戸、大連、長春ウランバートル、ソウル、台北、カザフスタンと各地で卒業生にインタビューを行なって生の声を残している。卒業生の年齢を考えると時間的にもぎりぎりの時期であり、大変貴重な内容と言える。また、当時の日記の記述なども転載されており、当時の生の言葉として大変興味深い。これまで満州国に関して読んだ本の中で、最も人間に近づいた内容だった。これらは全て重たく、簡単にまとめられるようなものではない。一つここに書くとするなら、建国大学卒業生の中には今でも言論の自由についての強い意識。卒業生が建国大学を批判する書物を出す場合であっても、カンパを頼まれて皆出資したという話が強く印象に残っている。真の言論の自由とはそういうものか。そういばカエサルもそんなことを言っていた気がする。