乗車日記

自転車ときのこ

日本海海戦の深層 読了

日露戦争前後の海軍技術の急速な発展と、黄海海戦日本海海戦の戦闘の関係を詳しく論じてある。また日露双方の司令官、東郷平八郎ロジェストウェンスキーの経歴に関してもかなり詳しい記述がある。
全体に司馬遼太郎坂の上の雲に批判的であり、その理由は、小説とはいえ登場人物を作り込み過ていてチームとして動いているはずのものを個人に無理やり帰着しすぎだという点と、海軍に関して昭和日本海軍の元参謀達に協力を求めすぎたので、それに引っ張られ過ぎているという点。後者については昭和海軍の将校であっても技術史に詳しいわけでは必ずしもなく、割と適当なことを言っているところがあるようだ。
特に、日露双方の砲弾命中率の違いが、精神力や民族性や訓練度合いで決まっているわけではなく、双方が採用していた、射撃管制法というソフトの違いに起因しているという指摘は重要だ。双方ともに司令塔で中央官制しながら射撃をするという新しい手法を取り入れて居たが、日本側はさらに同口径の砲を一斉に射撃して、その着弾パターンを分析し、次の射撃にフィードバックする方法を使っていたとのこと。そして、手法を使って5000mと言った長距離で高速走行中に打ち合うというのが実戦で行われたのは、日露戦争が初めてであり、ここで初めてその差が露呈したという。
全体的に具体的な記述で溢れており、非常に面白かったが、惜しむらくは各箇所ごとの根拠文献の参照がなされていないこと。まあ学術書ではないので仕方がないとは思うが、上記のような批判的観点で世に問うのなら、そこまでやっておいて欲しかった。読んでいて自分でも確認したいと思った点が何箇所かあるが、参考文献リストだけでは辿るのが難しい。
それはともかく、日本海海戦にまた興味が湧いてきたので長らく積ん読状態にあったノビコブ・プリボイの「バルチック艦隊の壊滅」を引っ張り出してきて、読み始めている。