乗車日記

自転車ときのこ

クーデターの技術 読了

著者は1898年トスカーナ生まれ、本書は1931年フランスで発刊。第一次世界大戦に参加し、その後イタリア特使の随員として、ワルシャワに滞在中に、ソ連軍の接近とそれによるポーランド政府の混乱を体験。さらにイタリアでムッソリーニよる革命を体験したのち、政権との軋轢により投獄。本書はヒトラーが政権を取る少し前(1930年の国会選挙でナチ党が18%の得票率を獲得したあたり)に発刊されたものだが、ヒトラーの暴力革命から議会制度内政権奪取への転向と、それに伴う突撃隊幹部の粛清を正確に予言している。

 訳者の解説に詳しいが、本書の最大の特徴は各種革命の最中と言っても良い時代に執筆されたにもかかわらず、イデオロギーとクーデター実行およびその防衛の技術を完全に分離して、後者について議論している点だ。第一章は1917年のロシア十月革命におけるトロツキーの工作部隊がいかにしてケレンスキー政府を転覆したかについて、そして第二章はそのトロツキースターリンから政権を奪うべく1927年に企てたクーデターがスターリンは以下の秘密警察によっていかに阻止されたかが議論されている。そして議会を利用した近代的クーデターの走りとしての、ナポレオンによるブリュメール十八日のクーデターについて、合法的革命の弱点とその阻止方法の要点が分析されている。この時、議会側はナポレオン側を追い詰めすぎたのが敗因で、だらだらと時間稼ぎをしていれば、政治手続きの中に埋没していたであろうという指摘は興味深い。

 古い本ではあるし、学術書ではないので、各論点の論拠が完全に示されているわけでもなく、女性差別ユダヤ人差別的な部分もあるが、現在進行中のミャンマーの状況を含め、いまだ混迷を続ける世界を前に一読しておく価値はある本だと思う。
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