乗車日記

自転車ときのこ

縄文とケルト 読了

松木武彦先生は小学館の日本の歴史の第1巻の「列島創世記」の作者でもある。買ってから気がついた。「列島創世記」は石器時代から古墳時代あたりまでの考古学的な最新の知見がまとめられていて大変面白かった記憶がある。
「縄文とケルト」では松木先生がイギリス留学の際に各地を巡って深められたブリテン島新石器時代から鉄器時代にかけての遺跡についての知見を、同様の時代区分に対応する日本の遺跡と比べつつ議論されている。
そもそもケルト」という概念には、国民国家の時代になって人々が自らのアイデンティティの源泉を欲するあまり見た幻想という成分が多く含まれているが、本書では当然それを踏まえた議論がされている。
それはさておき、次から次へと出てくる巨石建造物には圧倒される。金属器が発明される前の世界は、我々とは異なる基礎意識を持つある種の完成された文明があったのだろうということが納得できる。世代を超えた富の集積が起こらず、古墳と同じに見えるロングバロウも中身は有力者の墓ではなくて、いくつかの部屋がある複数の家族の代々のお墓だったりする。ストーンヘンジはそのような世界と青銅器時代との狭間にある特別な建造物らしい。建造が始まったのは石器時代で、完成されたのは青銅器時代。その頃には既に有力指導者の豪華な墓などもできていたとのこと。
日本とイギリスの違いについての考察もあった。石器時代から鉄器時代あたりまで同じような推移を遂げるが、ブリテン島はローマの属州となり、日本列島は漢帝国の支配は受けなかったところが大きな分岐点。後者では古墳時代の終わりにはアイデンティティが熟成されていたのに対し、前者ではローマ化の後、アングル、サクソン、ジュート、デーン、ノルマンと次々とやってくるという状態。それを反映して、現代におけるそれぞれの国での歴史の捉え方も、日本では常に列島が中心でそこに渡来人が来たりするという視点なのに対して、イギリスではヨーロッパ全体を俯瞰する視点、という指摘だった。
ストーンヘンジや他の魅力的なストーンサークルやヘンジやロングバロウや積石墳丘墓、そして秋田や青森や北海道の環状列石等々、機会があれば是非訪れて見たい。残念ながら当時は住みにくかった西日本には巨石建造物は無いようなので。