乗車日記

自転車ときのこ

読了 室町将軍の権力

膨大な古文書に裏付けられた、室町幕府初期の権力の構造についての深い考察。
実効的な支配力を失った公家の体制内に、ありとあらゆる政治的事態に適用できるだけの多様な文書様式が蓄積されていて、これらを室町幕府が活用する様子が詳しく分析されている。寺社の賦役免除などの書類を幕府主導で公家側の太政官の政務事務組織を使って作成させ、それに将軍が一見したということを書き加えて実効性を保障するというやり方が興味深い。もともと全国を遍く支配するという理念のもとに演繹的に構成されている律令制度とその発展形には、権威ある様々な文章形式があって、さらに公家たちが先祖代々それらを研究していうるので、やりたいことが分かればそれに応じた相応しいものを用意することができる。しかし、公家たちは実際にその文章で人や組織を動かす権力は既にない。幕府の方は力はあるけれど、そういった歴史の重さを背負った文書をいきなり作り出すことはできない。そこがうまく補完しあっているのだろうと理解した。
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著者も特筆されているが、公家社会に何百年にも亘って文章形式や事務処理方法、有職故実などが蓄えられてきていて、とてつもなく前の形式でも必要に応じて出してきて、それを問題なく作成・使用できてしまうというのは驚くべきことだと思った。現代とは社会の複雑さも発展の速度が違うだろうけど、例えば100年後の世界で、今我々の使っている行政手続きを誰かが覚えていて、必要なら復活させて使ったりできるだろうか?とてもできそうにない。