乗車日記

自転車ときのこ

陽明文庫展

近衛家に伝わる文物を保管するために近衛文麿氏が作った陽明文庫。普段は見られないその所蔵物が見られるというので、京都国立博物館に行ってきた。
内容の7割は藤原北家に代々伝わる日記。まめにつけている人もいれば、5日に一回ぐらいしか書かない人もいる。
今回始めて知ったが、平安時代から具注暦という日付や吉凶などを行をそこそこあけてカレンダーのように書き込んだ今で言う日記帳か手帳のような巻物があり*1、その行間にその日あったことを書き込んでいくというスタイルがあったようだ。紙面が足りないときは裏に書いたり、一旦切り離して紙を継ぎ足したりしていたようだ。
藤原道長御堂関白記もそのスタイルだったが、あまり筆まめではないようで、4,5日に一回ぐらいしか書いていない。娘の彰子に待望の男子が生まれたときの一条天皇が死んだときの記述なども、結構あっさりしていた。もう少し観想か何か書いてあるのかと思ったが、そうでもなかった。
まめな人は白紙の巻物を使って、毎日好きな長さで書き込んでいた。まあ、漢文で書いてあるので3割も分からないのだが、これまでいくつか読んだ公家日記が実際はどのようなスタイルで書かれているのか分かって大変良かった。
 意外だったのは高山寺の明恵上人の夢記が展示してあったことだ。藤原家と何か関係があったのだろうか。これを含めて歴史上の人物が直接書いたものが、千年から数百年たっても見られるというのは凄い事だ。数々の戦乱の中でこれらを守り通してこられた近衛家の方々は大変だったろうと思う。
 それから、今回は数年前から覚えようとがんばっていて、まったく覚えられない崩し字を3日だけ集中的に勉強してから行ったので、かなで書かれている和歌などが少しだけ読めて楽しかった。「か」と言う字がかなの「か」だけでなく漢文の中の「可」にも使われており、ほかにも同様の例がいくつかあった。肝心の省略形からかなができたという成り立ちからすると当たり前なのだが、自分の感覚ではかなが完全に独立した文字になっているので、最初は大変意外な感じがした。
 残りの二割ぐらいにあった工芸品、絵画等もすばらしかった。香道の道具を始めてみたが、あれは絶対に足を踏み入れてはいけない世界のように思える。香を削るために香鋸、香鑿、香剥、香槌、香割台といった3センチほどのミニ工具がある。当てた香の名前を示すための5ミリかける1センチほどの香札。291種類の香を入れたミニ箪笥。どれもこれも妖しい感じがする。
 銀細工の雛道具も大変小さく精密で、大変美しい。これだけでも見に来る会があった。最後の絵画は、たぶん文麿氏のコレクションかな。酒井抱一の四季花鳥屏風図、山口蓬春の錦秋は色彩が大変鮮やかで、思わずはっとする。ほかの絵も同様の感覚が感じられる絵達だった。

*1:帰ってから調べたところによると陰陽寮で作って配っていたらしい