乗車日記

自転車ときのこ

チューリングの大聖堂 読了

フォンノイマンが指揮をとって開発した世界初?の高速電子式プログラム内蔵コンピューターを巡る物語。 内容がライプニッツやら、プリンストン高等研究所の成り立ちやら、現代の分散型コンピューティングに至るまで多岐にわたり、それも時系列でなく行ったり来たり。読みやすい本ではなかったが、大変刺激的だった。

「デジタル世界は水素爆弾と同時に誕生した。」人類がはじめて手にした超高速計算能力はそもそもが水素爆弾製造のためであった。しかし、同時に数値気象予測、恒星進化、衝撃波、遺伝コード等々人間コンピューターを使っていた時代には全く歯が立たない、あるいは思いつきもしなかった膨大な計算量を必要とするシミュレーションを可能にした。まさにカンブリア紀の大爆発といったところで、新たな環境を得た科学者たちが様々なアイデアで計算を行っていく様子は大変面白い。

タイトルに名前はあるもののメインテーマはチューリングではなくフォンノイマンだ。彼に加えて、二次大戦前に続々とヨーロッパからやってきた科学者たちの突出した才能を見ると、ヨーロッパの科学界が失ったものが大変大きかったことを改めて感じるし、それを受容して自己のものにできる米国の雰囲気こそが、今でも続くあの国の力の源なのであろうと思う。

 チューリングが万能計算機が出来ることを証明し、フォンノイマンが最初にメモリー部分まで電子化した高速計算機のアーキテクチャーを構想し、そして実現したものだと思っていたが、後者の部分はかなり混沌としているようだ。戦時中の機密の闇に埋もれて、ENIACの開発者たちの構想がうやむやのうちにノイマンのレポートに入っているという主張もあり、最初に完成したのはENIACの開発者であるモークリーが作ったUNIVACであるという話もある。しかし、その後世界各地で作られたコンピュータはノイマンのもののコピーから始まっているようだ。このあたり、読み終わってネットをいろいろ調べても未だすっきりしない。

 あと、印象に残ったのはノイマンチューリングの最後。癌が脳にまで転移したノイマンは自分が簡単な計算すら出来なくなっていることに耐えられなかったようだ。チューリングは英国勲章まで受けながら、個人の趣味の問題で破壊され、自殺するに至る。この関連ではゲーデルも死んだときには体重30キロだったらしい。チューリングのことは何となく知っていたが、ノイマンゲーデルのことははじめて知り、衝撃を受けた。

 いろいろと蘊蓄が含まれている本なので、時間があればまた読み返したい。

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