乗車日記

自転車ときのこ

政治の起源 上 読了

どこかの書評で紹介されていて興味を持ったので買ってみた。上巻では生物としての人の性質から始まって、中国、インド、イスラーム、トルコの国家の立ち上がりを、国家組織、部族、宗教、法といった観点から分析している。著者の書いているとおり、個々の国家の歴史であればもっと詳しいものは沢山あるが、これらを比較しつつ統合的に論じることで見えてくるものは大きい。

 巨大な官僚組織が先に立ち上がって国家を形成した中国では、倫理によってのみしか帝王の権力を抑制することが出来ず、宗教的権威が優越したインドでは強力な王権は立ち上がらず、宗教の力で部族を越えた組織を作りかけたイスラーム王朝は結局部族主義に勝てず、奴隷軍人制度によって強力な軍と国家組織を形成しつつ、一代限りに留めることで強力な貴族が出来るのを抑制してきたオスマン帝国は制服による拡張が止ったところで制度を維持できなくなる。これほど単純化できるものではないのだろうが、さまざまな国や地域の比較は大変面白い。

 それ以外にも、カースト制度は輪廻転生を前提とすれば合理的な制度ということや、奴隷軍人制度が能力による昇進と(ある意味)機会平等を保証する制度であるとような視点は持ったことがなかったので新鮮だった。

 あと、思ったのはイギリスやフランスには野生の猿がいないのだろうということ。まあ寒いので、いないのでしょうけど。ホッブスやロックやルソーが自然状態というフィクションを使って自説を展開するにしても、みんなが野生の猿を見たことがあれば、猿の段階ですでに組織化されているのは一目瞭然なので、自然状態で孤独とかすべての個々人が争いあっているとかそういう説明はうさんくさく感じられたはず。

 上巻の最後ではヨーロッパのさわりがあり、カトリック教会による近親婚、親族婚姻の禁止の制度が、親族集団による富の蓄積を抑制し、部族の解体、ひいては個人主義の立ち上がりにつながったという説が紹介されており(J. Goody氏の説)大変興味深い。ぜひ元文献をあたってみたい。カトリック教会の意図はこれによって寡婦による教会の寄進を促進させることだったが、副作用として部族が解体され、その結果、ヨーロッパでは国家が部族と対立するという構図にはならなかったという説。その代わりに、封建制に基づく強力な貴族との対立となると言う話が下巻では展開されるとのこと。面白そうなので、読み続けたい。

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