乗車日記

自転車ときのこ

平家物語の再誕 読了

平家物語関連で目について、特に考えずに買ってしまった本。平家物語が明治~昭和にかけてどのように利用されてきたかについて書いてある。明治初期にはこれまで歴史として扱われてきたものが、文学として考えられるようになるなど、客観的な扱いが進みつつあったが、やがてロマンティックな感覚的な扱いによって日本精神の高揚に使われるようになっていく。
 そもそも西洋にあって日本になかった国民的叙事詩イーリアスニーベルンゲンの歌ローランの歌といったものに対応するものとして取り上げられ、武士達の中に英雄というものの日本版が見いだされ、最終的には奉公の誠、天皇への忠誠といったものを取り上げて、国家主義に適合した国民を養成するのに用いる、、、というようなことが様々な学者の手で行われたというようなことが詳細に記述してある。
 また戦後においても、ある種のイデオロギーの実現形を見いだすために読み解かれていたりする。
 途中で頭が痛くなってきたが、最期のページはとても良かった。複数の考え、立場、生き様といったものが絡み合っている平家物語を、一つの読み方だけで規定してしまうのは愚かしい、時には矛盾し合うこのような複数の声を聞きとどけて、人とは何かを考えることにしたい、というような著者の宣言がなされている。ここに至って、この本を読んでよかったと心から思った。
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