乗車日記

自転車ときのこ

この世界が消えた後の化学文明のつくりかた 読了

読み終わりました。ディドロの百科全書がすでに知識の安全庫を意識して作られていたとは驚きです。西洋ではローマ帝国崩壊時に古代の知識が一度失われているだけに、そういう危機意識があるのでしょうか。

それはそうと、文明崩壊後の農業では固有種の確保が重要になるだろうという指摘は確かにそう思います。ハイブリッド種子を作る技術がなくなれば、まともに作物が出来なくなるわけです。イギリスの本ですので、ノルウェースピッツベルゲン島の世界種子倉庫のことが言及されていました。永久凍土の中にあるので電源が失われても1000年は大丈夫だそうですが、日本から取りに行くのは遠いですね。
 他にもいろいろ書いてありましたが、航海時の経度検出には機械式精密時計の再開発よりも、無線技術を復活させて電波で時刻を伝達するほうが簡単だろうという指摘が秀逸でした。化学の立ち上げのあたりは、ジュールベルヌの神秘の島を思い出して懐かしいものがありました。まずはカリウムだろうが、酸化カルシウムだろうが、全部地面から掘り出したり、植物から取り出したりして作れるようにならないと行けないわけです。しかし、作物増産の鍵になるハーバーボッシュ法による窒素固定は100気圧、500℃というような環境を作り出せないと行けないので、その復活まではずいぶん時間がかかりそうです。まあそれ以前に、手動の糸つむぎ技術や機織り技術を復活させないと着るものも作れませんし、いろいろと大変です。食料を十分に作れないと、そもそも食料生産以外の仕事に就く人を支えることも出来ませんし。

知識の断片は残るから、人類がこれまでに文明を立ち上げてきた過程よりは知識面では条件は良いだろうが、良い鉱脈などはすでに採掘され尽くしているので、技術が失われた状態での資源の確保はとても大変になるという指摘も興味深いです。もしも文明崩壊があるとすると、その後に再構築される文明は、全体の形は似ていても個々の技術はずいぶん違う形になるのでしょうか。過去に何回か発生した大絶滅後の生態系では、個々の生態的地位に全く違う生き物が現れたりしたように。

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