乗車日記

自転車ときのこ

人間・始皇帝読了

史記や戦国策を基本としつつ、70年代以降に出土した同時代の竹簡資料で補完、補正しつつ始皇帝の生涯を通観した本。
f:id:tasano-kona:20201123131204j:plain

以下は私の印象。
秦の南郡(今の武漢あたり)の官吏の年代記に、天下統一の年(始皇26年)の記録が特になく、その後の始皇帝の地方巡行のことは書かれているというあたりに、その時代の地方の空気を感じる。
また2002年に湖南省の里耶古城の古井戸から発見された統一詔書の木版には、字の使い方が細かく(特に皇の字の形など)書いてある。字や言葉の使い方を揃えて新たに作り上げた皇帝という概念を、理解させ普及させることに力が注がれていることを感じる。

また本書では等高線の入った地図が何枚か掲載されていることが大変素晴らしいと思った。一般に人力で動き回る上では、地点間の距離だけではなく途中の起伏が非常に重要であり、等高線のない地図などは状況の理解に役立たないというのが私の実感。本書の著者はリモートセンシング等で遺跡全体の地形を捉える研究もされているだけあって、起伏の重要性を強調されている。特に水の流れについて理解する上でとても役に立つ。

実際、始皇帝廟の地下ダムの話などは聞いたことはあったが、これまでどういう意味を持つのか理解できていなかった。それが本書で、驪山付近の起伏を示した断面図を見せていただいて初めて理解できた。斜面に地下宮殿を作ったときに、山側から地下水が流れてくるのを地下に作ったダムで堰き止め、両脇に流す設計になっているのだろう。咸陽付近の農業用水路の設計や、南越と湖南を結ぶために作られた運河の設計なども高低差が地形図や断面図で示されているので良く理解できる。