乗車日記

自転車ときのこ

恐怖の2時間18分読了

以前に父に薦められてかなり前から借りていたが、なかなか読む機会がなかった。今回の事態にあたり状況を理解する助けになるかと思い読んだ。
 第一部はスリーマイル島発電所内の混乱状況を、それを引き起こした技術的および人的な問題点を中心に再現してある。第二部は原子力規制委員会や州政府など外部期間で混乱が広がり、広範囲に住人が避難することになってしまう過程が再現してある。
 福島の沸騰水型とは異なり、スリーマイルの原発は加圧水型であるが、冷却水の循環停止が冷却水の水位低下につながり、これによって燃料棒の一部が水面から露出したことで燃料棒の温度が上昇し、燃料棒表面のジルコニウム合金が水から酸素を奪って水素が発生したという所は一致している。ただしそこに至る物理的機構は異なるし、そもそもいい加減な設計や、少しぐらい故障していてもだましだまし運転するという会社の方針に起因している点は全く異なる。しかし、センサーから得られる限られた情報のみでシステム内部で生じていることを把握して対処することの難しさは今回も同様ではないかと推察する。
 また、関係機関が出した過大な放射線データに対する疑問の問い合わせが、様々な所を廻っているうちに事実になってしまい、多方面から事実ということで戻って来ることで、発した本人もそれを事実と認識してしまい、間違いが本当になって広範囲に渡る避難を引き起こした点などは教訓になる。ツイッターやメールなどで情報が瞬時に飛び交う現代においては、曖昧な情報の反射や共鳴などに特に気をつけなくてはならないのではないだろうか。
 それから、スリーマイルにおいても発生した水素ガスが原子炉建屋内に漏れだして爆発したが、建屋が航空機の墜落にも堪えられるレベルで作ってあったので、壊れなかったどころか、最初は誰も気がつかなかったそうだ。しかしその後、圧力容器内に溜まった水素が爆発する可能性があるという誤報が、原子力規制委員会の不手際から広がってしまい、大混乱を引き起こしたとのこと。きちんと計算すると容器内には水素が大量にあるので、酸素が発生しても燃焼限界の5%に達する前に水素と反応して水になってしまうので爆発し得ないという結果になるのだが、専門家もパニックになっていて考え違いをしたらしい。こういう場面では冷静な立場から検証を行う別グループが必要なことを示唆している。
 30年前にかかれた本ではあるが、現代においてもなお示唆に富んだ本である。原発に限らず様々なシステムにおいて、思い込みによって事実を認識できなくなるという恐ろしさ、原理を理解して機械を動かすことの重要性、機械としてだけでなく組織としてのフェールセーフ機構の重要性、普段の小さな事故の経緯を組織全体にフィードバックしておくことの重要性などが記述されている。人間的な要因も大いに絡むため、30年を経て克服できていない点もあるのではないだろうか。自分も身につまされる思いだ。