乗車日記

自転車ときのこ

ユダヤ人の起源読了

テルアビブ大学の一般史学科教授によるナショナリズム神話の解体と未来への提言。読むのに1ヶ月ぐらいかかった。
 旧約聖書時代からの民族の単一性、永続性をアイデンディの基盤としつつ、シオニズムはイスラエルがユダヤ人の国家としてパレスチナにあることの正当性を主張している。
 しかしこの本を読んでイスラエル人すべてがそう思っている訳ではないし、内部から見直しの声が上がっているということを知り、少し明るい気持ちになった。このような本がイスラエルでベストセラーになっているらしい。
 著者はネイション(人間共同体)論の専門家であり、近代のネイション国家形成の一般論と同じ土俵でシオニズムを論じている。様々な議論が示されていたが、特に下記の二点が興味深かった。
1. ネイション国家には構成員が信じる共通のアイデンティティが必要であり、そのために民族の起源が神話に遡って構築されてきた。それはナポレオン戦争後にドイツや東欧でネイション国家が形成されていく過程で顕著に現れている。シオニズムもこの時期に古代より続くユダヤ民族の単一性という考え方を構築した。
2. ユダヤ教の閉塞性はローマ帝国におけるキリスト教国教化以降のことであり、むしろヘレニズムによって普遍性に目覚めた一神教の先駆者として、キリスト教に先立って各地に布教を進めていた。現在ユダヤ人といわれている人の大部分は、布教により改宗した人々、特にロシア南部にいたハザール人の子孫であろう。生物学的には現在のパレスチナ人が古代ユダヤ王国の子孫ではないか。
 著者は古代や中世史の専門家ではないため、また資料がほとんど無いためハザール人についての論証は甘い感じがしたが、今後の考古学的な検証等も期待したい。