乗車日記

自転車ときのこ

マハン海上権力論集読了

軍事理論の古典といわれる孫子クラウゼヴィッツ、マハン、リデルハートのうちなぜかマハンだけは読んだことがなかった。NHKドラマに便乗したのか、昨年末に学術文庫に再録されて出版されていたので、買って本棚に積んであった。
 想像していたのとは違ってあまり体系的な記述ではなく、読むのにずいぶん時間がかかった。理論というよりも予言に近い部分も多かったが、100年少し前の各国政府に多大な影響を与えた人物がどのようなことを考えていたのかの一端を知ることが出来た。
 マハンの理論の中心は貿易こそが国家の繁栄の源泉であり、そのためにはシーレーンの維持が不可欠であるということだが、この論文集には特にアジア関連の論文が集められているようで、むしろそちらの時事問題の議論のほうが目を引いた。特に、様々な議論のなかで東洋の文明と西洋の文明の接触が、ゲルマン人とローマ文明の接触になぞらえられていたのが興味深かった。ゲルマン民族が最終的にはローマ文明とキリスト教を継承したように、アジア人もそうなるのではないか、あるいはなってほしいというイメージだ。
 その背景には日本の西洋化政策の成功例と中国の巨大な人口への恐れがある。今は混乱していてもいずれは巨大な力になるだろうから、その時には西洋人に近い考え方になっていて欲しい、さらにはそのために積極的に動くべきという意見だ。単なる功利主義ではなく、そこにキリスト教倫理や正義といった自らの文明に対する強い確信があるのは、一次大戦を経験する前のベルエポックだからだろうか。
 もっとこの時代の各国の人々の考え方について読んでみたくなった。