本書の前半は三国志演義と史実とを並行して解説しながら、両者の違いを説明している。演義はともかく正史の方は記述がいろいろなところに散らばっているし、演義も7割は本当のことが書いてあるので素人目に違いをはっきりさせるのは難しく、専門家の解説はとてもありがたい。演義の中で呉が割りを食っていて、特に魯粛に道化役が割り当てられているという解説は今更ながらだが、本書の解説が最も考察が深いと感じた。大きな戦略の正しさという意味で魯粛が最も遠くを見通していたということがよく理解できた。
中盤から後半は政治史を離れて、文化や技術、地方性などから多角的に三国時代とその後代への影響を分析している。紙の普及の重要性、三星堆遺跡から続く蜀における予言の伝統、三国それぞれの枠組みを超える形での名士人のネットワーク、仏教の普及、そして朝鮮半島および日本との関わりに至るまで、非常に多岐に亘り、そして深く考察してある。特に、理論上というか伝説上のものであった禅譲を、実際に実行に移したのは曹丕が初めてという指摘が興味深かった。