乗車日記

自転車ときのこ

読了、物語 イスラエルの歴史

2008年出版の本。著者の専門はエルサレム史。
旧約聖書の時代から、1993年のオスロ合意、その後の2003年の中東和平構想ロードマップまでが記述してある。最新情報を除く全体像が把握できるという点で有用な本と言える。著者の専攻は古代史と推察され、ユダヤ人の始祖とされるアブラハムから第二神殿時代(最後はキリストがいた頃まで)ぐらいの記述が厚い(123p/360p)。ローマ帝国に対する属州ユダヤの反乱(AD70)からオスマン帝国時代の終わりまでが73p/360p。近代シオニズムの始まり(1882年)の辺りから、東欧・中欧からのパレスチナ移民開始、民族対立の始まり、1948年の独立、4次に亘る中東戦争、そしてクリントンのロードマップが提言される2003年までが121p/360p。

古代部分以外は他者の著書による部分が多いが、全時代をまとまった形で読めるのは良い。ただ中東戦争の記述はイスラエル第六代大統領かつ元軍人のハイム・ヘルツォーグの著書に依っている部分が多いので、軍事的部分はともかく、政治的意図を解説した部分は他の情報源も確認したほうが良いように思う。

私にとってはこれまでの断片的知識を統合するとともに、パレスチナ紛争が1948年からの問題ではなく、19世紀末からロシア帝国のゆらぎに伴うポグロム(対ユダヤ人集団暴力行為)の多発、それに伴うユダヤ人のパレスチナへの大量移民の開始から始まった問題であり、1920年からの暴力の応酬が現在に至っていることを改めて認識する機会となった。意外だったのは4回に亘る中東戦争が全て国連の仲介で停戦に至っていること。米ソ対立の只中でも国連がある程度機能していたことを思うと、今の状況がもどかしい。