乗車日記

自転車ときのこ

読了、ホロコーストからガザへ

2009年の本だが、同じことがまた繰り返されている。著者はユダヤアメリカ人で、両親はポーランドにあった強制収容所の稀有な生存者。戦後、サラ・ロイ氏の母はアメリカに行き、その姉はイスラエルへ行った。そのためイスラエルの親戚を訪れることも多いとのことで、両方の雰囲気を語っている。
前半はオスロ合意以降のヨルダン川西岸地区およびガザ地区の占領と隔離について。本来、国家を経営して繁栄を追求する権利を持つはずのパレスチナ人の問題が、戦略的にもっと低いレベルの人道問題に貶められていることが論じられている。日本を含む国際社会の対応もこれを助長しているという意見も述べられている。
後半はイスラエルユダヤ人やそれを支持するユダヤ人がホロコーストの記憶をパレスチナ人迫害を正当化する道具に使っていることについて論じられている。彼らが占領によって起こっていることを意識的に見ないことで、精神の安定性を保っていることについても述べられている。そしてサラ・ロイ氏自身が西岸地区で経験した、イスラエル兵によるパレスチナ人の尊厳を貶めるための行為についても。また氏の経験では、イスラエルではホロコーストイスラエル国家ができる以前のユダヤ人の生活を侮蔑的に見る人が多く、それを聞いて辛い思いをしてきたとのことだ。このような見方は第7代首相のメナハム・ベギンの言説「世界は畜殺される者に同情しない。世界が尊敬するのは戦うものだけである」と同じだが、そのような考えが今でも主流とは知らなかった。
20世紀前半の朝鮮半島や中国での日本の行為のことを考えると、胸に手を当てて考えるべき部分も多い。読むのが辛い本ではあるが、ぜひ一度読んでみることをお薦めしたい。